天皇のことば

私の体を通してからにしてください

私が六十年ほど生きてきた中で人生最大のショックだったことばというのは、この天皇のことばです。
私はこの言葉を聞いて、猛烈なショックを受けました。人間の魂はここまで崇高で美しくなれるものなのか、と絶句しました。
一月一日、早く起きた天皇は東西南北、四方の空に向かってこう言うというのです。
「もし今年、日本に災いが降ってくるのであれば、まず私の体を通してからにしてください。」これを四方拝というそうです。


普通では考えられない話です。
病気や事故、不運や災難というものを逃れたい。自分だけはそういうものに見舞われたくないと思うのが普通です。当然のことです。
しかし世の中にはこんなことを考えている方がいるのだ、ということが私には大いなる衝撃でした。


私自身が病気の身なので、ショックは二重にも三重にも重なりました。病気は治ったほうがいい。治すべきものだとすべての人が信じ込み、私も信じ込まされていました。


しかし、周りの皆さんがそれを浴びるぐらいなら、私の体に集めてください、と神に向かって、宇宙にお祈りをする方がいるのです。
2011年3月11日。東日本大震災が起きました。
東北の海沿いのところは大津波に襲われ、たくさんの人が亡くなり、家々も流されました。そのニュースを見ていたとき、天皇が「まず私の体を通してからにしてください。」と言っている立場の方であったことを、私は既に知っていました。


その視点から、この天皇のお見舞いを見たとき、私の中で。一つ理解できたことがありました。天皇は単に慰めに行ったのではない。励ましにいったのではない。おそらく申し訳なさというものを感じながら、お見舞いに行かれたのだと思います。


天皇のちょっとしたことば、ちょっとした表情の端々に、自分の体で支えきれなかった申し訳なさ、というものを私は感じ取ることができました。

 

人間の魂はここまで崇高なものになることができるのかと本当に魂が震えるようでした。

                    小林正観