「気持ちを伝えあう技術」(創元社、2010年)を読んでいて、ふっと考えた。
「聞く」と「聴(き)く」の違いについてだ。
 こころの悩みやストレスを抱えた人たちに積極性をもって生きることなどを助言(カウンセリング)することが大事だが、
その第一歩として「聴き上手」になるということがある。
著者の榎本博明さんの師である佐治守夫・元東京大学教授は、
「聞く」と「聴く」の違いについて次のように述べている。
 「聴く」には相手の気持ちや人間性をわかろうとする、積極的な働きかけがある、と。
相手の言いたいことや感情を理解しようという姿勢がある、という。
 これに対して「聞く」は、近くにいれば自然に耳に入ってくるもので相手のことをわかろうとする積極性はない。
カウンセリングの基本は、相手のことを理解しようとする「積極的傾聴」にある。
こころの悩みやストレスを抱えた人たちには、まず「聴く」ことから始めようというのだ。
 がんにかかった人たちのところを訪問して、その悩みや現在の気持ちを聴く人がいる。
そうした人を養成する会もあるそうだ。悩みや気持ちを人に話すとすっきりすることがよくある。そういう仕事だろう。
 古くは吉田兼好も「徒然草」で「おぼしきこと言わぬは腹ふくるるわざなれば・・・・」と書いているように、
悩みを胸にしまっておき、言いたいことも言わないでいることは、
こころの健康にとって悪いし、体をむしばぬことになる。
 積極的傾聴の基本は相手を尊重する気持ちと相手を理解しようという姿勢、と榎本さんはいう。
実行できるのは、肉親だろう。
知人だと、話の中の疑問などをいちいち指摘されたら話し手は気分を害することにもなる。
よほど親しくないと、話し手の気持ちを理解しようとするのは難しい。
 見ず知らずの人だと、どうだろうか。案外うまくいくかもしれない。
がんの患者を訪問して話を聴く、というのはこのことを実行しているのだろう。
 医療関係者ならばなお良い。白衣の人を前にすると、
今の気持ちや悩みを話し、すっきりした気分になることがよくある。
じっくりと人の話を聴くことが、こころの健康にとって必要だということを医療関係者は肝に銘じてほしい。

 

                  江戸川大学教授 中村雅美